図書館や文書館が抱える膨大な紙資料のデジタル化は、単なる画像保存では終わりません。資料を「探せる状態」にするため、司書や学芸員の多くが目録作成・分類記号付与・件名標目選定に年間数百時間を費やしています。私自身、複数の図書館・アーカイブ機関の DX 支援を通じて、スキャン後の OCR テキストを手作業で校正し、目録データに転記する工程が最大のボトルネックだと認識してきました。本記事では、Claude Code を活用した資料整理ワークフローの具体例を示し、メタデータ自動付与・分類推薦・多言語資料の目録作成で、どのように検索性を高められるかを実務目線で整理します。
本記事の結論: Claude Code は OCR 後のテキストから書誌情報を抽出し、既存の分類体系に沿った記号・件名を補助的に提案する。司書・アーキビストが最終判断する前提で、目録作成の工数を軽減できる。
Claude Code が図書館・アーカイブで担う役割
Claude Code は、Anthropic 社が提供する大規模言語モデル Claude に、ファイル操作・外部ツール実行機能を組み込んだ AI 開発環境です。単なるチャットボットと異なり、次の処理を一貫して実行できます。
- スキャン画像の OCR テキスト解析
- 書誌情報(著者名・刊行年・出版者)の抽出
- NDC(日本十進分類法)や件名標目の候補提示
- 複数言語の資料概要を日本語目録に変換
- 検索インデックス用の JSON・CSV 生成
図書館システム(OPAC や ILS)へ直接投入できるデータ形式を出力できる点が、従来の AI サービスと異なる特徴です。ただし、Claude Code が提案する分類記号や件名は補助候補であり、最終的な目録採用は必ず専門職員が判断する前提となります。
スキャン資料から構造化データへの変換プロセス
OCR テキストの前処理
紙資料をスキャンした後、一般的な OCR ソフト(Adobe Acrobat / ABBYY FineReader 等)でテキスト抽出を行います。この段階では、旧字体の誤認識・縦書きレイアウトの崩れ・欠損文字が残ります。Claude Code に OCR 結果を渡すと、前後文脈から誤認識を推測し、修正候補を提示します。
1. OCR 結果の入力 — PDF または TXT ファイルをアップロード。
2. 文字校正プロンプト — 「この OCR テキストに含まれる明らかな誤認識を修正してください。旧字体・異体字はそのまま残し、欠損箇所は〔 〕で補ってください」と指示。
3. 差分確認 — Claude Code が修正箇所を提示。司書が目視で承認または修正。
完全自動化は困難ですが、初回校正の工数を削減できます。
書誌情報の構造化
修正済み OCR テキストから、次の項目を抽出し JSON 形式で出力します。
| 項目 | 内容 | 抽出方法 |
|---|---|---|
| 責任表示 | 著者名・編者名 | 奥付または標題紙の記載を解析 |
| タイトル | 本タイトル・並列タイトル | レイアウト・フォントサイズから推定 |
| 出版年 | 刊行年・発行年 | 西暦または和暦を統一形式に変換 |
| 出版者 | 発行所・印刷所 | 奥付情報の抽出 |
| 物理形態 | ページ数・判型 | 実測値と照合可能 |
Claude Code に「この奥付テキストから書誌情報を JSON で出力してください。不明な項目は null としてください」と指示すると、次のような出力を得られます。
{
"title": "明治期教育資料集",
"author": "文部省編纂局編",
"publisher": "博文館",
"pub_year": "1895",
"pages": "300",
"note": null
}
この JSON を図書館システムのインポート形式に変換するスクリプトも、Claude Code に依頼して生成できます。
メタデータ自動付与と分類推薦
NDC 分類記号の候補提示
日本十進分類法(NDC)の類・綱・目を手作業で選定する際、資料内容の精読が必要です。Claude Code に「この資料の NDC 分類記号候補を3つ挙げてください。根拠も示してください」と指示すると、本文キーワードと分類表の対応関係を提示します。
注意: Claude Code は NDC の最新版(第10版)の全階層を完全に記憶していません。主要な類・綱レベルは推薦可能ですが、細目は分類表と照合する必要があります。
実際の提案例:
- 370 教育 — 本文に「学制・義務教育」の記述が多い
- 210.6 日本史(明治時代) — 時代区分が明確
- 372.1 教育史・事情 — 教育制度の歴史的変遷を扱う
司書が最終判断する前に、候補を絞り込む補助として活用できます。
件名標目の推薦
国立国会図書館件名標目表(NDLSH)や基本件名標目表(BSH)に準拠した件名を付与する際も、Claude Code は本文キーワードから候補を提示します。ただし、NDLSH の統制語彙に完全一致しない場合があるため、必ず件名標目表と照合してください。
推薦例:
- 初等教育(NDLSH: SH 初等教育)
- 教育制度(NDLSH: SH 教育制度)
- 明治時代(NDLSH: SH 明治時代)
Claude Code に「この件名は NDLSH に存在するか確認してください」と指示しても、最新の統制語彙データベースへアクセスできないため、司書が Web NDL Authorities 等で確認する運用が必須です。
多言語資料の目録作成
外国語資料(英語・中国語・韓国語等)のタイトルと内容要約を日本語目録に反映する際、Claude Code の多言語処理能力が有効です。
英語資料の例
原タイトル: Annual Report of the Library Board, 1923
Claude Code に「このタイトルを日本語目録の形式で記述してください。並列タイトルとして原語も残してください」と指示すると、次のような出力を得られます。
図書館委員会年次報告 = Annual Report of the Library Board
出版年: 1923
言語: 英語
内容: 1923年度の図書館運営状況・蔵書統計・予算報告を含む。
古文書・くずし字資料への対応限界
くずし字や変体仮名を含む古文書は、OCR 精度が極端に低下します。Claude Code は変体仮名の一部を認識できる場合がありますが、専門的なくずし字解読ツール(みんなで翻刻 / IIIF Curation Viewer 等)との併用が推奨されます。
検索インデックス生成の実装例
全文検索用 JSON の作成
OPAC や文書管理システムで全文検索を実現するため、次の構造の JSON を生成します。
{
"id": "A001",
"title": "明治期教育資料集",
"author": "文部省編纂局編",
"pub_year": 1895,
"ndc": "372.1",
"subject": ["初等教育", "教育制度", "明治時代"],
"fulltext": "OCR 本文全文...",
"language": "ja"
}
Claude Code に「この書誌情報と OCR テキストから、検索インデックス用 JSON を生成してください」と指示すると、上記形式で出力されます。複数資料を一括処理する際は、CSV または JSON Lines 形式で保存し、Elasticsearch や Solr へ投入する運用が一般的です。
ファセット検索の項目設計
利用者が「出版年」「分類」「言語」で絞り込み検索を行えるよう、各項目を明確に構造化します。Claude Code は次のファセット項目を自動抽出できます。
- 出版年代: 1890-1899 / 1900-1909 …
- NDC 類: 000 総記 / 300 社会科学 …
- 言語: 日本語 / 英語 / 中国語 …
ただし、NDC の細分類を正確に推定するには、分類表の参照が必須です。
処理精度と品質管理の実務
Claude Code が生成したメタデータは、次の品質管理プロセスを経て公開します。
- 初回提案の確認 — 分類記号・件名が分類表・統制語彙と一致するか照合
- サンプル検証 — 全資料の10%程度を抽出し、手作業での目録と比較
- 誤記録のフィードバック — 誤った分類が繰り返される場合、プロンプトを調整
- 定期的な監査 — 四半期ごとにランダム抽出で精度を測定
完全自動化ではなく、司書・アーキビストが最終判断を下す「補助ツール」として位置づけることで、業務全体の効率化と品質維持を両立できます。
既存システムとの連携設計
NACSIS-CAT への対応
大学図書館が利用する NACSIS-CAT(目録所在情報サービス)へ登録する際、Claude Code が生成した書誌データを MARC 形式に変換する必要があります。次の手順で実施します。
1. JSON から MARC への変換スクリプト生成 — Claude Code に「この JSON を NACSIS-CAT の MARC フォーマットに変換する Python スクリプトを書いてください」と依頼。
2. フィールド対応表の確認 — MARC21 または MARC-JP のフィールド(245: タイトル / 100: 著者 等)が正しく割り当てられているか確認。
3. 目録担当者による最終校正 — 自動生成された MARC レコードを目視で確認し、NACSIS-CAT へ登録。
ILS(図書館システム)へのインポート
商用 ILS(Ex Libris Alma / SirsiDynix 等)の多くは CSV・MARC・JSON 形式のインポートに対応しています。Claude Code が出力した JSON を各システムの仕様に合わせて変換するスクリプトを生成し、バッチ処理で一括登録できます。
導入時の検討事項
初期投資と運用コスト
Claude Code の利用料金は、API 経由での従量課金(トークン単位)または Claude.ai の有料プラン(月額固定)を選択できます。詳細な料金体系は Claude Code 法人導入完全ガイド 2026年版 で解説していますが、資料点数が多い場合は API 経由のバッチ処理が費用対効果に優れます。
職員研修の必要性
司書・アーキビストが Claude Code を活用するには、次のスキル習得が推奨されます。
- プロンプト設計(指示文の書き方)
- JSON・CSV の基礎理解
- 出力結果の検証方法
デジライズでは、図書館・文書館向けの Claude Code 研修プログラムを提供しており、実際の資料を題材にしたハンズオン形式で、3-4時間で基本操作を習得できます。
導入事例: 公共図書館の郷土資料室では、昭和初期の地域史料 500点のデジタル化に Claude Code を活用し、目録作成期間を従来の半分程度に短縮した事例があります(デジライズ社内集計値)。ただし、最終確認は司書が実施し、分類・件名の変更を3割程度の資料で行いました。
セキュリティとプライバシー保護
資料の機密性への配慮
未公開資料や個人情報を含む文書を Claude Code で処理する際は、次の対策を講じます。
- データの匿名化: 個人名・住所をマスキングしてから入力
- クローズド環境の利用: Claude API を組織内ネットワークで運用(VPN 経由)
- 処理後のログ削除: API 経由の場合、Anthropic 社は30日後にログを削除する仕様(2025年1月時点)
公開前提の資料であれば、Claude.ai の Web インターフェースで処理しても問題ありませんが、未公開・非公開資料は API 経由のバッチ処理を推奨します。
著作権と利用許諾
スキャン画像と OCR テキストの著作権は、原資料の権利者に帰属します。Claude Code での処理は目録作成・検索性向上を目的とした「引用」の範囲と解釈できる場合が多いですが、商業出版物や著作権保護期間中の資料は、事前に権利者へ確認してください。
まとめ
Claude Code は、図書館・アーカイブのデジタル化において、スキャン後の OCR テキストから書誌情報を抽出し、NDC 分類記号や件名標目の候補を補助的に提示するツールです。完全自動化ではなく、司書・アーキビストが最終判断する前提で活用することで、目録作成の工数を軽減し、検索性を高められます。
導入を検討する際は、次の点を事前に整理してください。
- 処理対象資料の言語・時代・状態
- 既存システム(ILS / OPAC)との連携仕様
- 職員の IT スキルレベルと研修体制
- 未公開資料の機密性とセキュリティ要件
デジライズでは、図書館・文書館向けの Claude Code 導入支援を「研修」と「コンサルティング」の2本柱で提供しています。実際の資料を用いたプロンプト設計支援、既存システムとの連携スクリプト開発、品質管理プロセスの設計まで、一貫してサポートします。無料相談も承っておりますので、デジタル化プロジェクトの初期段階からお気軽にご相談ください。
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デジライズの実績は社内集計値です。特に明記のない数値付き事例は、匿名加工された実例をもとにしたモデルケースです。導入効果は企業や業務によって異なります。各サービスの料金・機能・提供条件は記事の公開・更新時点の情報であり、変更されるため、最新情報はAnthropic公式サイトなどの一次情報をご確認ください。



